2013年7月1日月曜日

毎日新聞: 降圧剤データ操作疑惑 (社説)

2013年07月28日

真相解明し臨床研究改革を

 大手製薬会社ノバルティスファーマの高血圧症治療薬(降圧剤)ディオバン(一般名バルサルタン)に関し、京都府立医大は2003~07年に実施した臨床研究で、データが人為的に操作され、間違った結論が導かれていた可能性が高いことを、調査によって明らかにした。

 臨床研究の総括責任者だった松原弘明・元京都府立医大教授は操作を否定。解析にはノバルティスの元社員が関わっていた。この元社員が自社に有利な結果を導き出したのではないかとも疑われているが、ノバルティスは「データ操作や改ざんに関与したことを示す事実はない」と否定している。

 真相がまったく分からない。これで幕引きをすることは許されない。

■奨学寄付金を見直せ■

 この臨床研究は「ほかの降圧剤と比較して、ディオバンは脳卒中や狭心症などのリスクを半減させた」と結論づけていた。府立医大には臨床研究対象になった患者のカルテが残っており、データを操作した跡をたどることができた。ノバルティスは元社員に事情聴取し、疑惑に応える責任がある。

 ディオバンの販売額は年間1千億円以上に上り、100万人以上に処方されていた。数多い降圧剤の中で、この薬が選択された理由に府立医大の臨床研究結果があったことは否めない。

 府立医大とノバルティスには、社会に対し説明責任がある。互いに協力して調査を深め、松原元教授や元社員も調査に応じ、真相の解明に貢献すべきだろう。両者の事実上の引責辞職でお茶を濁すわけにはいかない。

 松原元教授には、ノバルティスから長年、計1億円以上の奨学寄付金が提供されていた。お礼とも取られかねない。製薬会社から有力な教授への奨学寄付金は、日本の貧困な臨床研究費を補完するあしき慣習だが、癒着を招く温床になり、基本的にやめるべきだ。

■公正でない社員関与■

 薬の臨床研究データ解析に当該の製薬会社の社員が関わるのも好ましくない。今回は、ノバルティスの社員である事実を伏せたままだった形式が問題となっているが、そもそも、利害関係がある会社の社員の関与は臨床研究の公正さを損なう。

 同様のディオバンの臨床研究は他の複数の大学でも実施されていた。大学は調査して、結果を公表すべきだ。

 こうした医師主導臨床研究は、製薬会社が薬の承認を受けるために有効性や安全性を確認する臨床試験とは異なる。その分、監査が弱かった。データを解析できる第三者の生物統計専門家の参加を義務づけるなどルールを厳しくすべきだろう。

 安倍政権は医療の技術革新を重視しており、臨床研究の活性化が欠かせない。今回の疑惑を教訓に、臨床研究を改革し、強化するよう研究者らに求めたい。




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