2013年7月2日火曜日

バルサルタンを用いた5つの医師主導臨床研究におけるノバルティスファーマ株式会社の関与に関する報告書

ノバルティスホームページのコピー(魚拓)→ http://megalodon.jp/2013-0802-0534-37/www.novartis.co.jp/valsartan/


バルサルタンの医師主導臨床研究に関して


2013年7月29日
バルサルタン(製品名:ディオバン®)の医師主導臨床研究について、弊社では社内調査に加えて、4月より独立した第三者外部専門家による調査が行われてきました。このたび、外部専門家の調査が終了し、7月29日に記者会見を行いました。 つきましては本サイトにおいて、記者会見の冒頭で弊社社長が述べたお詫びと見解、ならびに調査報告書*(「バルサルタンを用いた5つの医師主導臨床研究におけるノバルティスファーマ株式会社の関与に関する報告書」)を公開します。
*この調査報告書には、第三者外部専門家による調査報告(第3章)が含まれています。これは、ノバルティスファーマの本社であるNovartis Pharma AG社から独立した調査を委託された第三者法律事務所により作成されたものです。
【社長記者会見要旨】
このたびは、患者さま、ご家族、医療従事者の皆さま、および国民の皆さまに大変ご心配とご迷惑をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます。
日本で2001年から2004年の間に開始された、バルサルタンの5つの医師主導臨床研究において、弊社の元社員が関わり、かつ研究論文への開示が適切に行われていなかったことをお詫び申し上げます。これによって、日本の医師主導臨床研究の信頼性を揺るがしかねない事態を生じさせたこと、また、これらの5つの研究の論文を引用して、バルサルタンのプロモーションを行ったことにつきましても、お詫び申し上げます。
弊社では、今回の事態に至ったことを深刻に受け止め、これまで社内調査、第三者による調査が行われてきました。このたび、第三者による、元社員を含めた弊社日本法人を対象とする調査が終了しましたので、結果をお伝えします。
この調査では、残念ながら真相を完全に解明するには至っておりません。弊社としては、この件については決してうやむやにせず、判明したことは誠実に皆さまにお伝えしたいと考えております。
先日の、京都府立医科大学の調査結果の発表によりますと、論文のデータに何らかの操作があったとされています。弊社はこの発表について重く受け止めております。しかし、本研究が医師主導のため、データを持っていない弊社としましては、調査にも限界があります。7月16日、私から京都府立医科大学に対して、協力して真相を解明したいと申し入れる手紙をお送りしました。
また研究に関わっていた弊社の元社員につきましては、本人はこれまで、弊社と第三者機関の10時間以上に及ぶ聞き取り調査に答えているので、改めて大学の調査に応じる必要はないという立場でした。しかし、弊社としては、本人に対し、会社の調査だけではなく、大学の調査に協力する重要性が増していることを伝えてきました。また7月16日には、社長名で本人に調査に協力するよう要請を行いました。その結果、最新の状況では本人がその重要性を理解し、大学による調査に応じることに前向きになっております。
弊社としては、今回の件で患者さまからも多数のお問い合わせをいただいており、誠に申し訳なく思っております。ただし、今回問題となっている医師主導臨床研究は、バルサルタンの承認後に実施されており、降圧剤としてのバルサルタンの有効性、安全性は確認されております。このことは、改めてご理解いただきたいと思います。
今回の医師主導臨床研究で検討された心血管系イベント(脳卒中、心筋梗塞など)の予防効果の研究は、海外では先行して実施されていました。その後、海外では高血圧症の効能に加えて、心筋梗塞後の治療および心不全の治療薬として追加効能が認められました。そのような環境の中で、日本でもバルサルタンが医師主導臨床研究の研究対象に取り上げられたものと理解しています。とはいえ、弊社の元社員がこれらの臨床研究に関与し、未だに真相究明に至っていないことで患者さまが不安に思われていることにつき、大変申し訳なく思っております。
私たちは製薬会社として、高い倫理観を持って社会的責任を果たすことを求められています。今後、あらゆる調査に全面的に協力して真相の解明に当たり、私たちの責務として、二度とこのようなことが起こらないよう、再発防止を徹底してまいります。
患者さま、ご家族、医療従事者の方々、国民の皆さまからの信頼をいただけるよう、全社を挙げて不退転の決意で取り組んでまいります。
改めて、ご迷惑、ご心配をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます。
※過去にホームページに掲載しておりましたバルサルタンの医師主導研究に関する弊社見解は、記者会見で表明した会社見解をもって、すべて削除させていただきました。
これまでの見解において、時に、限られた情報による説明不足の点がありましたことをお詫びします。




NOVARTIS



バルサルタンを用いた

5つの医師主導臨床研究における

ノバルティスファーマ株式会社の
関与に関する報告書

ノバルティスファーマ株式会社
2013年7月29日

この報告書は、ノバルティスファーマ株式会社が公表するものです。第3章は、ノバルティスファーマ株式会社の本社であるNovartis Pharma AG社から独立した調査を委託された第三者法律事務所により、英文で作成されたものであり、第三者法律事務所は第3章およびその日本語訳を承認いたします。第三者法律事務所はさらに、報告書全編につき、英文および日本語訳をレビューいたしました。


I. はじめに
2013年3月、ノバルティスファーマ株式会社(以下「ノバルティスファーマ」又は弊社)は、「Investigator-Initiated Trials (医師主導臨床研究)」と称される、2001年から2004年の間に開始され弊社製品ディオバン(一般名バルサルタン)を用いた大規模医師主導臨床研究における弊社社員の関与につき、社内調査を開始いたしました。
2013年4月には、ノバルティスファーマの本社であるNovartis Pharma AG社(以下「スイス本社」)が、これら医師主導臨床研究への弊社社員の関与につき、独立した第三者専門家による包括的な調査を開始いたしました。
これら2つの調査の結果、1人の弊社元社員(以下「当該元社員」)が5つの医師主導臨床研究に大幅に関与していたことがわかりました。当該元社員による関与の概略は以下の通りです。
・ 当該元社員は、バルサルタンを用いた5つの医師主導臨床研究に関与しており、関与の度合いは研究ごとに異なっていました。また、当該元社員の部下であったもう1人の社員が、5つの医師主導臨床研究のうちの一つに関与していました。
・ 研究論文の謝辞には、弊社の社員であることが著者によって開示されることなく当該元社員の名前が記載されていました。
・ 当該元社員は、データの解析や、臨床研究のデザイン、データ割付方法の開発、研究事務、統計解析、及び論文執筆に関与していました。データの意図的な操作や改ざんがあったかどうかを示すいかなる証拠も、調査では発見されませんでした。
・ 当該元社員の当時の上司の中には、当該元社員のこれら5つの医師主導臨床研究への関与を認識し、支援していた者がいたことが判明しました。しかし、当該元社員が上司からこのように行動すべきとの指示を受けていたとの証左はありませんでした。
・ 当該元社員は、当時、ある学術機関(大阪市立大学)の非常勤講師でもありました。このため、当該元社員は、臨床研究に関わる活動と弊社の業務とを区別しておけば、臨床研究に深く携わることができると理解していました。つまり、学術機関における立場により、臨床研究への関与が正当化されると考えていたのです。また、当該元社員だけでなく、当時の上司や他の社員、研究者も同様の考えをもっていました。
・ 当該元社員の統計解析における役割は、正式に統計解析機関として5つの医師主導臨床研究の論文に記載されていました。しかし、当該元社員の研究における他の役割、例えばデータ割付方法、論文執筆、研究事務などは開示されておらず、

また当該元社員がノバルティスファーマの社員であることも開示されていませんでした。
・ これら5つの医師主導臨床研究をリードした研究者は、当該元社員の医師主導臨床研究への関与の全体像を知っていたものと思われます。
・ 当該元社員およびその部下がノバルティスファーマのアドレスから送ったEメールおよび様々な文書や関係者の証言から窺える状況により、これらの医師主導臨床研究の研究者の少なくとも数名は、当該元社員およびその部下が弊社の社員であったことを知っていたと思われます。
本報告書では、スイス本社が委託した第三者の専門家による調査が7月5日に終了したことを受けて、当該元社員によるバルサルタンの医師主導臨床研究のデータの意図的な操作や改ざんを示す証拠は発見されなかったことを含め、調査結果の概略をご報告いたします。また、今回の問題に対する弊社の是正策、今後のプロモーション資材の審査の厳格化及び、再発防止策についてもご報告いたします。


II. 本件の経緯
2013年2月1日、European Heart Journal 誌は、京都ハートスタディ (“KHS”)に関する2009年の主要論文を、「報告されたデータの中に重大な問題が存在した」という理由により撤回しました。この論文は、ディオバンによるハイリスク高血圧患者でのイベント発現の抑制効果を従来の療法と比較した研究でした。メディアはその後すぐに、KHSへのノバルティスファーマの関わりについてとりあげ、KHSに関与していたとされる弊社社員(当時)が特定されました。
2013年3月、弊社社長(当時)は、当時得ていた情報に基づき、当該社員は統計方法に関してアドバイスを提供しただけであり、研究の内容やデザインに関わる相談を受けたことはない。さらに、当該社員は大阪市立大学の非常勤講師を兼務しており、統計の世界では有名な人物だとの発言をしました。また、3月には弊社は内部調査を開始し、4月19日にスイス本社の経営陣に報告書を提出しました。この報告書では、当該元社員によるKHSへの関与は当初把握されていた以上に深いものであり、当該元社員は他の4つの医師主導臨床研究にも同様な関与があったとしています。
スイス本社は、5つのバルサルタンの医師主導臨床研究にノバルティスファーマの社員の関与があった可能性につき調査するため、2013年4月22日に、独立第三者調査機関としてモリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所 伊藤 見富法律事務所(外国法共同事業事務所)(以下「モリソン・フォースター」)に調査を委託いたしました。当該事務所には、調査に必要な情報と関係者に接した上で、ノバルティス経営陣のコントロールから

独立した調査を行って結論を出すこと、という指示が出されました。調査は、17名の弁護士と法務専門家から構成されるチームにより実施されました。
2013年5月15日付けで、当該元社員は弊社を辞職いたしました。
2013年5月22日、弊社は、その時点までに得られた調査結果に基づき、諸学会(日本医学会、日本循環器学会、日本高血圧学会)に対し報告書を提出いたしました。ノバルティスファーマ及びスイス本社は、ステートメントを発表し、同報告書に記載されている調査結果の概略を公表しました。ノバルティスファーマの社内調査では、本件の根本的な問題は当該元社員の利益相反につき完全な開示がなされなかったことにあるとしています。
本件は、5月24日に開かれた日本医学会の利益相反委員会で取り上げられ、日本の医師主導臨床研究への信頼性を揺るがす事態との指摘を受けました。
6月3日にはノバルティスファーマはプレスリリースを発表し、利益相反の状態を把握しないまま5つの医師主導臨床研究の論文を引用してプロモーションを行ってきたことにつき、心よりお詫び申し上げました。本件に関する社会的及び道義的責任を受け止め、今後このような事態の再発を防ぐ手段を早急にとることを表明し、是正策の第1段階の概略について公表いたしました。さらに弊社は、このような事態を生じさせたことについて深く反省し、経営陣の報酬を減額する決定をいたしました。
7月5日には、モリソン・フォースターが調査を終了し、スイス本社に調査結果報告書を提出いたしました。


III. 第三者機関調査
A. 調査の範囲と方法
スイス本社は、モリソン・フォースターに、以下の事項に関する調査を委託いたしました。
1. 日本におけるディオバンに関わる特定の医師主導臨床研究に関するノバルティスファーマの業務について
2. これらの医師主導臨床研究への当該元社員を含むノバルティスファーマ社員の関与について
3. これらの医師主導臨床研究への寄付その他による資金提供について
4. 当該元社員のこれらの医師主導臨床研究への関与、及び他のノバルティスファーマ社員によるこれら医師主導臨床研究に関する行為についてのノバルティスファーマ及びスイス本社の経営陣の認識について

調査は、当該元社員が関与していたバルサルタンに関わる以下の大規模医師主導臨床研究に重点をおいて行われました。
・ 東京慈恵会医科大学による「JIKEI Heart Study」 (“JHS”)
・ 千葉大学による「Valsartan Amlodipine Randomized Trial」(“VART”)
・ 京都府立医科大学による「KYOTO Heart Study」(“KHS”)
・  滋賀医科大学による「Shiga Micro Albuminuria Reduction Trial」(“SMART”)
・ 名古屋大学による「NAGOYA Heart Study」(“NHS”)
4月に調査委託を受けて以降、モリソン・フォースターは、関係従業員20名のコンピュータとサーバーのEメールアカウントから電子文書(Eメールと電子ファイル)を収集し、2001年から現在に至るまでの期間の電子文書をレビューしました。まず、関係社員のコンピュータとサーバーのEメールアカウントから、全部で2,000 ギガバイト近い電子データを収集しました。様々な方法を駆使して、関連するE-メールを特定し、100万を超えるEメールや他の電子文書が処理され、その中から、15万を超える関連文書が特定されレビューされました。この電子文書レビューに加え、重要な人物の人事ファイルや勤務評価、弊社のコンプライアンス方針、行動規範、就業規則、組織図など、弊社の法務部門、コンプライアンス部門、経理部門、人事部門にある数多くの紙文書と電子ファイルも収集、レビューされました。
モリソン・フォースターはさらに、弊社の経営陣に対する本件の背景事情に関する聴き取り調査に加え、弊社社員15名と、元社員2名に対しても聴き取り調査を行いました。中には、2回以上聴き取り調査を受けた社員もいました。モリソン・フォースターが行った聞き取り調査の回数は、全部で23回に及びました。当該元社員に対しては、辞職する前に、合計約4時間半に及ぶ聴き取り調査を2度に亘り行いました。辞職後は、当該元社員は、追加の聴き取り調査を拒んでいます。
なお、調査には、医師主導臨床研究開始からの時間の経過による限界がありました。重要な社員の多くが既に弊社を退社し、聴き取り調査に応じなかったうえ、関連文書も、ある時期のものは入手してレビューすることができませんでした。また、当該元社員は、個人所有のラップトップコンピュータに保存されている業務活動の記録を調査することを拒否しました。
また、モリソン・フォースターは、研究論文で導かれている結論の整合性を確認するための独立した分析は行っていません。そのような分析は、調査範囲外であるとともに、ノバルティスファーマ、その社員のいずれも現在、研究データや被験者のカルテを入手することができる立場にないので、モリソン・フォースターがそのような分析を行うことは不可能でした。当該元社員は、少なくともいくつかの機会において、研究データを入手することが可能でしたが、モリソン・フォースターによる調査期間中、当該元社員はそのようなことができたことを否定していました。また、調査では、当該元社員が被験者のカルテを入手することができたという証拠は確認されませんでした。加えて、5つのバルサルタンの医師主導臨床研究の結論を検討するのに必要な、研究データや被験者カルテに現在入手することができるノバルティスファーマの社員がいるとの証拠は確認されませんでした。

B. 第三者機関による調査結果
第三者機関の調査結果は、以下の通りです。
・ 当該元社員は、度合は異なるものの、5つの研究に関与していました。当該元社員の5つの研究への関与の詳細については、第3章Cをご覧ください。概して、研究デザイン、データ割付方法の開発、研究事務、統計解析、論文執筆に参加していました。また当該元社員は、少なくとも2つの医師主導臨床研究におけるエンドポイント委員会に出席したことを含め、研究者とともに数多くの委員会に出席していました。
・ もう1人の元社員は5つの医師主導臨床研究の1つ、SMARTに関与していました。この元社員は当該元社員の部下で、ノバルティスファーマを2007年に退職しています。
・ 当該元社員は、データが固定される前後ともに、入力された研究データを入手することができました。しかし、入手できた文書からは、どのような方法でデータを入手したのかは明らかではありません。また、当該元社員によるデータの操作があったかどうかを示す証拠はありませんでした。
・ ノバルティスファーマの社員は一般的に、当該元社員による研究への関与は、当該元社員がノバルティスファーマの社員としてではなく大阪市立大学の非常勤講師として研究に参加していたため、許されると思い込んでいました。
・ 当該元社員らのノバルティスファーマのアドレスを送信元として受信されたEメールおよび様々な文書や関係者の証言から窺える状況によると、5つの医師主導臨床研究の研究者は、当該元社員らがノバルティスファーマの社員であることを認識していた、ないしは認識して然るべきであったといえます。
・ 当該元社員らの上司とノバルティスファーマの経営陣の一部の者は、当該元社員の研究への関与の程度について認識していた、ないしは認識して然るべきであったといえます。一方、経営陣のうちの上層部の者は当該元社員の日々の業務については把握していなかったと考えられます。
・ これら5つの研究は、ノバルティスファーマの奨学寄附金による支援を受けていました。これらの奨学寄附金は、名目上は使途を特定していませんが、ノバルティスファーマは奨学寄附金が当該研究の支援に用いられることを意図及び期待し、また奨学寄附金を受け取る側も、奨学寄附金が研究の支援を意図していることを認識していました。その後、ノバルティスファーマは、外部機関による研究に資金を拠出する方法を委受託研究契約の方式に改善し、新しい手続きは透明性の高いものになっています。

C. 5つの医師主導臨床研究における当該元社員の関与

関係者による聞き取り調査及びレビューに供された文書に基づき、モリソン・フォースターによる調査は、当該元社員が5つの医師主導臨床研究のそれぞれに以下のように関与していたとしています。
研究
当該元社員の関与の程度と態様
JIKEI Heart Study (JHS)・ 当該元社員は、固定された被験者のデータを入手可能であったことを認めています。

・ また、上司へのEメールの中で、エンドポイント委員会と運営委員会の小委員会での検討のために、データを提示する担当であったことを認めています。

・ 当該元社員が上司に提出していた月例報告書によると、当該元社員は論文執筆委員会、試験事務局会合、解析委員会、安全性委員会、モニター委員会、データモニター会合、データマネージメント会合、ウェブ会合、特別委員会など各種委員会の多くに出席していました。

・ 被験者データが固定される前のデータを格納するデータベースに、当該元社員がアクセスできたことを直接示す文書は存在しませんでした。しかし、データモニター会合とデータマネージメント会合に出席していたこと、当該元社員がエクスポートされたデータのファイルを持っていたことから、当該元社員がそのようなデータを入手することは可能であったことが示唆されます。しかし、どのような方法でこのようなデータを入手することができたのかは明らかではありません。
KYOTO Heart Study (KHS)・ 当該元社員は、上司へのEメールの中で、データマネージメントチームの一員として活動していたこと、エンドポイント委員会の資料作成のために保護された被験者データを解凍したことを認めています。また、当該元社員がエクスポートされたデータのファイルを持っていたことも伺われます。ほかの文書にも、当該元社員が、固定前の入力されたデータを入手可能であったこと、そして実際にデータを入手していたことが示されています。しかし、どのような方法でこのようなデータを入手することができたのかは明らかではありません。

・ 当該元社員は、固定後の被験者データを入手可能であったことを認めています。

・ 当該元社員の上司に対する月例報告書によると、当該元社員は事務局会合、評価項目委員会、解析委員会、安全性委員会、データモニター委員会など多くの委員会に出席していました。

・ 当該元社員が統計解析を行い、出版された論文の原稿の一部を執筆したことも文書に示されています。
Valsartan Amlodipine Randomized Trial(VART)・ 当該元社員の関与は、研究の体制と研究のオペレーションに関する助言に限られていたことが、文書に示されています。

・ 関係者の1人の証言によると、当該元社員と研究者の1人との間に生じた亀裂により、当該元社員はVARTの研究者たちとほとんど接触がなかったと考えられます。

・ 当該元社員は、VARTのデータベースにログインする認証情報を与えられていたことが文書に示されています。当該元社員が実際にデータベースにアクセスしたかどうかを示す証拠は見つかっていません。

・ VARTに関するある論文の原稿を論文公表の前に当該元社員が受け取っていたことも、文書に示されています。当該元社員が、原稿に対しコメントをしたか、あるいは、原稿を校正したかどうかを示す証拠は見つかっていません。
Shiga Micro Albuminuria Reduction Trial(SMART)・ 当該元社員が、研究の体制の構築と研究のデザイン開発に関わっていたことが、文書に示されています。

・ 当該元社員は、固定された被験者データを入手可能であったことを認めています。被験者データが固定される前のデータを格納するデータベースに、当該元社員がアクセスできたことを直接示す文書は存在しませんでした。

・ 当該元社員の上司に対する月例報告書によると、当該元社員は事務局会合、エンドポイント委員会、解析委員会、安全性委員会、運営委員会に出席していました。

・ 当該元社員の部下はより広範に関与していました。当該部下は、研究プロトコールを策定し、研究の体制を確立し、データ収集と解析のためにウェブ上でのネットワークを開発し、業務委託先との間で必要な契約を作成し、コンピュータを購入し、中間解析会議用に資料を作成し、会議の運営を担当し、被験者データのフォローアップを行い、データの質管理をし、統計解析を行ったことが、文書から伺われます。
NAGOYA Heart Study (NHS)・ 当該元社員が、研究体制づくりに関与していたことが、文書に示されています。  当該元社員は、固定された被験者データを入手可能であったことを認めています。被験者データが固定される前のデータを格納するデータベースに、当該元社員がアクセスできたことを直接示す文書は存在しませんでした。

・ 当該元社員の上司に対する月例報告書によると、当該元社員は事務局会合、解析委員会、安全性委員会、運営委員会に出席していました。

・ 被験者データが固定される前の入力されたデータを、当該元社員が入手したことを直接示す文書は存在しませんでした。しかし、安全性委員会に出席していたことから、当該元社員がそのようなデータを入手することは可能であったことが示唆されます。

・ 同様に、解析委員会に当該元社員が出席していたことは、当該元社員が統計解析を行っていた可能性を示唆しています。これは、他の文書によっても裏付けられています。






IV. 利益相反問題の発生原因

ノバルティスファーマの調査およびモリソン・フォースターによる内部調査の両方により、5つの医師主導臨床研究における当該元社員の関与、そして当該元社員の名前がノバルティスファーマとの関係を正しく開示することなしに発表論文に記載されるという結果になった要因がいくつか特定されました。


A. 利益相反問題および医師主導臨床研究に対する理解不足
5つのバルサルタンの医師主導臨床研究が開始された2001年から2004年当時、医師主導臨床研究における利益相反を明確に規定したガイドラインが存在していませんでした。また、当該元社員およびその上司は、製薬企業の社員の医師主導臨床研究に対する関わり方についての理解が十分ではありませんでした。さらに、ノバルティスファーマの社内教育でも、第三者臨床研究から生ずる利益相反の問題に関する問題について十分に取り上げていませんでした。

B. プロモーション資材の審査プロセスの不備
ノバルティスファーマでは、研究論文を引用したプロモーション資材は、社内審査委員会の承認を得る規則になっています。しかし、この審査委員会による研究論文のレビューは、医薬品の使用が薬事承認の範囲内であることの確認や、医薬品の有効性と安全性の情報が適正に記載されているかの確認などに限られ、論文が弊社による資金的支援あるいは社員の研究関与による潜在的利益相反を正しく開示しているかをチェックする機能は有していませんでした。


V. 再発防止策
6月3日付けの公式の謝罪の後、ノバルティスファーマは、スイス本社の監督と支援の下に、本件の再発防止のために一連の是正処置を開始しています。

A. プロモーション資材の審査プロセスの厳格化
プロモーション資材の審査プロセスにおいて、利益相反についてもチェックができるように現行審査プロセスを厳格化します。また、こうしたプロセスの変更を、速やかに社内研修教材に反映します。潜在的利益相反の確認と適切な対応を継続的に徹底し、さらに、社員のアカデミアとの兼業や社外における研究活動をモニターし、記録する社内規定を制定します。具体的には、以下のような審査プロセスを運用します。
・ プロモーション資材の作成責任部署は、予め定められたチェックシートを用いて、引用する論文が弊社との利益相反を適正に開示しているかを確認し、その確認結果を審査の依頼に際して審査委員会に報告します。
・ 審査委員会の事務局は、そのチェックシートの内容の妥当性を社内のデータベースと照合して確認し、その適格性を確認した上で、審査への移行を決定します。
・ 各審査担当部署は、責任部署としての審査の役割に加えて、あらゆる入手可能な情報に基づき、利益相反上の問題が生じていないかについて注意を払って慎重に審査します。

B. 社員教育
7月1日より5日まで、ノバルティスファーマは、医療用医薬品のプロモーション活動を自粛し、コンプライアンス研修を実施しました。この研修では、5つの医師主導臨床研究に関連する問題を全社員で共有し、関連する法令や新たに制定したガイドラインなどを含め社内のルールと手順の遵守について学習しました。具体的には、外部講師による講演、グループディスカッションをプログラムに組み入れて、参加した社員一人ひとりの自覚を高めるよう工夫しました。
今後も、プロモーション資材を作成する部署を中心に、定期的に利益相反に関する社員教育を行う予定です。

<研修プログラムの主要内容>
・ 利益相反(外部講師による講演を含む)
・ 医師主導臨床研究
・ 利益相反事案の現状と課題
・ 公正競争規約
・ ノバルティスファーマの社員行動規範および利益相反に関する方針

C. 医師主導臨床研究に関する手順の強化
ノバルティスファーマは、規模の大きい研究から順次、使途を規定しない奨学寄附金から契約による臨床研究に移行しています。弊社はまた、第三者/医師主導臨床研究の実施について許容される活動、および必要な手順について制定し、その方針について社員教育を徹底して行う所存です。この方針の主要な点は以下の通りです。
・ 医師主導臨床研究は、ノバルティスファーマから独立して提起されなければならない。
・ ノバルティスファーマによる医師主導臨床研究への関わりは、委受託研究契約に基づく研究対価の支払いあるいは医薬品の提供という形態でのみ許可される。それ以外の形態は、薬事部門および法務部門の見解を得た後にのみ、個別ベースで許可され、契約を締結しなければならない。
・ 医師主導臨床研究の提起は、研究者の専門的知識、能力、および経験、ならびに研究の有益性の評価、およびその審査を経た社内の正式な承認を得た後に、研究者に商業的影響が及ばない場合にのみ行うことができる。
・ 医師主導臨床研究の対価は適切な金額内でなければならず、また、当該研究の対価であることを示す書式で文書化されなければならない。
・ ノバルティスファーマの社員は、研究者が実施すべき如何なる業務も実施してはならない。

D. 懲戒処分
ノバルティスファーマは、当該元社員の上司に対し、第三者機関調査の結果を踏まえ、社内規定に基づき厳正な審議を経て、懲戒処分を決定しました。
E. バルサルタン関連講演会の自粛
本問題に関する責任を受け止め、ノバルティスファーマは2013年6月からバルサルタン関連講演会の開催を自粛しており、8月末までこのような講演会は控えます。


VI. 調査対象となった5つの医師主導臨床研究を実施した大学との協力
ノバルティスファーマは、5つの医師主導臨床研究に使用されたデータを再解析することを支持します。弊社では、自らこれらデータにアクセスすることができませんが、このデータにアクセスすることのできる大学当事者が現在実施している調査に全面的に協力する所存です。2013年7月16日付けの書簡の中で、ノバルティスファーマは、京都府立医科大学に対して、弊社当該元社員との聞き取り調査から得られた情報の提供も含め、同大学の調査に全面的に協力することを申し出ております。
ノバルティスファーマは、関係大学が当該元社員との面談を希望していることを理解しており、当該元社員は既に弊社の管理下にはないものの、関係大学からの要請を当該元社員に伝えております。


VII. 結論
ノバルティスファーマ及びスイス本社はこの状況を厳粛に受けとめております。さらに、社内調査の実施に加え、事実を突き止めどのような行為あるいは不作為が本件の発生につながったかを解明するために、第三者機関への調査も依頼いたしました。ノバルティスファーマ及びスイス本社は、当該元社員の5つの医師主導臨床研究への関与により、不適切な外観が生じ、臨床研究に対する皆様の信頼を損ねる結果となってしまったことを自覚しております。このような事態を生じさせてしまったことにつき、深くお詫び申し上げます。ノバルティスファーマ及びスイス本社は、これらの問題への迅速な対策を実施しており、今後は最も高い水準の倫理とコンプライアンスを実現していく所存でございます。

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