2013年7月5日金曜日

日本学術会議: 会長談話「科学研究における不正行為の防止と利益相反への適切な対処について」を公表いたしました。

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-d4.pdf
http://megalodon.jp/2013-0815-0555-48/www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-d4.pdf


日本学術会議会長談話
科学研究における不正行為の防止と利益相反への適切な対処について
1. 不正行為・利益相反と科学研究の課題
真理に忠実で、社会に有用であるべき科学研究において、残念ながら不正行為や
利益相反問題が後を絶ちません。最近のノバルティスファーマ社が関わる降圧剤バ
ルサルタンをめぐる不正疑惑もその一つです。京都府立医大をはじめとするいくつ
かの大学の医学系研究科で同社のバルサルタンの効果を検証する販売後の臨床試験
が行われた際に、何らかのデータ操作が行われ、同社にとって都合の良い結果が導
かれたことを京都府立医大の調査報告は強く示唆しています。また、同社の社員が
研究に参加して重要な役割を果たしたにもかかわらず、発表した論文では同社の関
与を明らかにしていませんでした。加えて、同社からは大学や研究者に研究費等の
形で多額の金銭が提供されていました。既に、複数の論文の取下げ、教員の辞職が
なされるなど、深刻な事態を裏付けるような動きが表面化しています。
研究費であるにせよ、研究者が企業から金銭の提供を受けることに伴って、研究
結果を歪めることがあれば、それは科学研究の公共性の観点からみて、科学者の行
動規範にもとる重大な不正行為です。関係する大学には、さらに事態の徹底した解
明・公表を行い、再発防止の体制をとることが求められます。
同時に、いわゆる「利益相反」、すなわち、臨床試験で良好な結果が出れば、巨
大な利益を得られる製薬会社と、公正で中立的であるべき大学や研究者との間に不
健全な関係が存在しないことを常に社会に説明する透明性が求められます。その意
味で、企業が大学や研究者に対して個別的に研究費の提供や研究スタッフの派遣等
を行える現行の制度にも、不正行為を生み出す原因が潜んでいると言わなければな
りません。
こうした問題に対処して健全性を高めることは科学研究に課せられた大きな課題
です。
2. これまでの不正行為等の防止対策
日本学術会議では、平成15年6月以来、科学研究における不正行為の防止のため
に継続的にメッセージを出し、薬学研究におけるレギュラトリー・サイエンス(科
学的成果を社会に有用なものとするための規制・制度のあり方論)についても提言
を発表し、さらに本年1月には「科学者の行動規範について」を改訂して、「公正
な研究」等に関する事項を追加し、不正防止対策等の強化を訴えてきました。
しかし、これらのメッセージにもかかわらず、今回の事件が起きたことから、よ
り強力な取組が必要と認識しています。また、臨床試験に関わる製薬会社と研究者
との癒着が起こりがちな構造を改革することは、もとより日本学術会議の力だけで
可能となるものではなく、生命科学系の学会や職能団体、製薬企業等、関係者全体
による取組が必要です。
私は、本年6月21日付の会長談話「真に成果の出る日本版NIH構築のために」
で、生命科学研究におけるイノベーションの促進、特に大学などで行われる基礎研
究の臨床研究や創薬への橋渡し機能を強化することが我が国の重要な課題であるこ
とを指摘しました。基礎研究とその応用の質を高めてイノベーションを活発にする
ためにも、科学研究における不正を根絶し、健全性を高めなければなりません。
3. 今後の取組
医療技術や医薬品の健全な発展という国民の利益を脅かし、科学者に対する国民
の信頼感を毀損するような不正行為等を根絶するために、日本学術会議は、以下の
テーマについて早急に議論を興し、半年間で結論をまとめ、関係者とともにそれら
を実行していくことにより、生命科学をはじめとする科学研究が、その健全性と研
究水準において世界最高水準になるように力を尽くします。
(1)行動規範に関する研修
例えば、すべての研究者が、不正行為や利益相反への対処を含めた「科学者の
行動規範」を学習し、それに基づいて行動するように、研究機関、学協会等にお
いて研修プログラムを開発して実施すること。特に、研究者が公的研究助成に応
募する際に、上記の研修を終えていることを条件とする等の措置を取ること。
(2)不正行為等の防止活動
例えば、研究機関、学会、あるいはこれらが存在する地域において、機関や学
会を超えた科学者から構成される「科学者行動規範普及委員会」(仮称)を設置
し、不正行為の防止や利益相反への適切な対処のために行動規範の普及啓発活動
を行うこと。また日本学術会議がこうした活動の中核となること。
(3)臨床試験に関わる制度改革
企業からの提供資金の明示、論文における利益相反に関する記載などを徹底す
ることをはじめとし、臨床試験における製薬会社、研究者や研究機関、政府の役
割やとるべき行動を改めて検討し、不正行為の防止や利益相反への適切な対処に
向けた方策を政府や社会に提言すること。併せて、臨床試験の技術的、理論的質
向上に向けた提言を行うことによって、医薬品分野におけるイノベーションを促
進すること。
平成25年7月23日
日本学術会議会長 大西 隆

0 件のコメント:

コメントを投稿