2013年7月5日金曜日

日本学術会議: Kyoto Heart Studyに関する見解

http://jams.med.or.jp/news/032.html

http://megalodon.jp/2013-0815-0830-06/jams.med.or.jp/news/032.html


お知らせ

平成25年7月12日

Kyoto Heart Studyに関する見解

日本医学会   会長  髙久 史麿
利益相反委員会委員長  曽根 三郎
 バルサルタン臨床試験結果の報告論文の撤回に端を発して論文内容に関する疑惑が社会的に拡がり、医薬品開発には必須となる産学連携への危機感の高まりと共に日本で実施される臨床試験の結果の信頼性が国内だけでなく、国際的にも大きく揺らいでいる。日本医学会利益相反委員会は5月24日開催の委員会で日本循環器学会からKyoto Heart Study(KHS)報告論文の調査結果についてヒアリングを行った。その結果、臨床試験を実施した大学側に十分な調査を要望し、指摘された疑惑の真相解明とともに説明責任を求めてきた。
 7月11日、京都府立医科大学はKHS調査結果を報告し、同大学内で登録されカルテ調査をし得た223症例について、(1)バルサルタンに効果が出るように解析用データセット、特に複合イベント発生数、一部血圧値についてデータ操作がなされていたこと、(2)カルテ調査結果を用いた解析からバルサルタン論文の結論が誤っている可能性が高いこと、(3)販売元の製薬会社ノバルティスファーマ(N社)の元社員がデータ解析などを行っていたが、KHSに深くかかわった元社員が大学からの聞き取り調査に応じなかったことを明らかにした。今回の報告は、恣意的なデータ操作が行われたのではないかという疑惑をさらに深めるもので、我が国の臨床研究の信頼性を揺るがす重大な事態といえる。日本医学会は、この事態を深く憂慮せざるを得ない。
 今回のバルサルタンの件は、(1)企業依頼と考えられる医師主導の比較臨床試験、(2)3,000名の被験者を対象とする大規模試験であり、その結果は臨床現場の治療薬選択に大きなインパクトを持つこと、(3)人為的なデータ操作により、バルサルタンの降圧効果に加えて脳卒中や狭心症などの心血管イベントの発生率を下げると結論づけがなされ、販売促進に大きく利用された。本件は、倫理面だけでなく社会的にもN社の責任は極めて重いと言わざるを得ない。再発防止策を講じるためにも、N社の元社員が関わった複数のバルサルタン臨床試験について該当する大学はカルテ調査を行い、真相解明に向けて真摯に取り組むよう強く要望する。同時に、N社は当該大学の調査活動に積極的に協力し、実態の解明と再発防止に努められるよう要望する。
 今回のKHSにかかる報告書は産学連携にかかる金銭関係、医師主導の臨床試験の実施(原資、データ管理と統計解析、論文作成と発表など)における企業とのかかわり方、倫理審査や利益相反状態の審査などについての問題点を数多く浮き彫りにしている。再発防止には、全国医学部長病院長会議、日本医学会、日本製薬工業協会、医療用医薬品製造販売業公正取引協議会などの組織、団体などが連携協力し、倫理性、科学性を担保とした医師主導の臨床試験実施のためのルール作り、論文発表の指針、金銭関係の透明化、利益相反状態のマネージメントなどを確保する仕組み作りが必要であり、適正に産学連携が推進できるように取り組んで行くことが喫緊の課題と考えている。

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