2013年7月2日火曜日

ダイヤモンド・オンライン: 論文効果で300億~400億円販売上乗せ!?改ざんで問われるノバルティスの説明責任

ダイヤモンド・オンライン: 論文効果で300億~400億円販売上乗せ!?改ざんで問われるノバルティスの説明責任

http://diamond.jp/articles/-/39394
http://megalodon.jp/2013-0802-0543-35/diamond.jp/articles/-/39394

ディオバン論文問題は、最悪の方向に向かっている。
 スイスの大手製薬会社、ノバルティス ファーマの降圧剤「ディオバン(一般名:バルサルタン)」について同社社員(当時、現在は退職)が、京都府立医科大学、東京慈恵医科大学、滋賀医科大学、千葉大学、名古屋大学の5大学の医師主導の臨床研究に、関与していたことが発覚、論文の信用性に疑いが生じているのだ。
 この社員は、5大学いずれの臨床研究でも、製薬会社の身分を開示せず、非常勤講師だった大阪市立大学の肩書でデータ解析の専門家として参加。特に、京都府立医科大学では、データ解析を担当していた。ノバルティスの元社員によるデータの不正操作があるか否かが大きな焦点だった。
 7月11日、京都府立医科大学は調査結果を発表。臨床研究によるカルテと解析用のデータの間に相違が見られ、最終的な解析用データに「何らかの人為的な操作が行われた疑いがある」と報告。脳卒中などのリスク抑制効果について、ディオバンに有利なデータ操作が行われていた。
 だが、肝心の「誰がデータ操作をしたのか」は特定できず、改ざんが意図して行われたかどうかさえも確認できなかった。
 その大きな要因は「退職した元社員の強い意志により実現しなかった」というノバルティス側の理由により、大学側が元社員に直接ヒアリングできなかったためだ。
 既にノバルティスは、6月3日付けで元社員へのヒアリングやメールの記録などの内部調査によって、「データの意図的な操作や改ざんを示す事実はなかった」と発表している。この発表が正しいのならば、本来はやましいことがないのにも関わらず、元社員は協力を拒んだことになる。
 これはデータ解析できる人間が限定されていることから、元社員によるデータ改ざんの疑いを強めている大学側とは、明らかに相反するものだ。かえってノバルティスに対する疑惑と不信感を増幅させる結果となった。
現在、ノバルティスはスイス本社でも内部調査を進めており、「スイス本社の強い意向なのかもしれないが、ノバルティスは真相究明と業界の信頼回復のために元社員には何が何でも協力させるべきだった」という声が製薬業界内からも上がる。
 京都府立医科大学も、担当教授が辞任してしまったことなどを理由に、今回の調査結果を「最終報告書」と位置づけており、白黒つかない曖昧なままでの決着だ。医学界全体が“及び腰”であり、無責任体質という印象を与えてしまっている。

日本の臨床研究の根幹揺るがす

 ある大学病院の院長は「ディオバン論文問題は、医学界に対する国民の信用、医師と製薬会社の間にある信頼関係、そして日本の臨床研究の根幹を揺るがしている」と憤る。
 今回の論文は、医師主導の臨床研究と呼ばれるもの。新薬の販売後、さらに薬の有効性を証明するというものだ。
 ディオバンは、血圧を下げるだけでなく、脳卒中や心筋梗塞などリスクが減るという効果に優れる画期的な新薬として、豊富な国内外での科学的データをウリとして販売を伸ばしてきた。
 ディオバンの2012年日本国内の売上高は1000億円を超えている。当初の販売予想が400億~700億円程度だったことなどもあり、「300億~400億円程度が5大学の臨床研究の論文効果で、上乗せされている」(業界筋)とみられている。
 ある内科医は「確かにディオバンは海外では有名な新薬だった。だが、海外データは投与量が320ミリグラムとあまりに多く、日本人向けにはあまり参考にはならないと感じた」「ところが、5大学の臨床研究の論文では、4分の1の80ミリグラムでも十分に効果があるという結果が出ていた。日本でディオバンが一気に普及するのに役だったのは間違いないでしょう」と説明する。
 製薬会社は医師主導の臨床研究のデータを販売促進で活用し、マーケティング戦略として成功させる。その一方で、医師は、有名な新薬に関して世界的な論文を発表するという名誉が得られる――。
 本来、こうした医師と製薬会社の関係は、正式な手順を経ていれば、問題ではないはずだ。
 ただし、ディオバンの場合、単なる利益相反の問題から、“データ改ざん”という致命的な問題にまで進展してしまった。それだけに、問題は根深い。

製薬会社主導という実態

 そもそも医師主導の臨床研究の多くは、限りなく“製薬会社主導”に近いのが実態だ。多くの大学病院では、どうしても資金力や人材面に限りがある。製薬会社の資金力や組織力に頼らざるを得ない。特にデータ解析の専門家は少なく、製薬会社から派遣されることは珍しくはないのだ。
 一度でも疑い始めるとキリがない。白いものさえも黒ずんで見えてしまう。
 現在では、他の製薬会社が関与する大規模臨床研究をはじめ、日本の臨床研究全体にも“疑惑の目”が向けられる事態に発展しつつあるのだ。
 循環器系の医師の間では「うちの大学が関与した、あの薬の論文は大丈夫か」「あの大規模臨床研究のデータは不自然だ」という類いの話が飛び買う。医学系研究者の間でも、京都府立医科大学の論文を掲載した『ランセット』をはじめ、海外の有名医学論文誌が「しばらくは日本人医師の臨床研究の論文掲載を見送る方針らしい」という風評に懸念を感じ始めている。
 医療現場でも「ディオバンはカルシウム拮抗剤などの既存薬に比べて、薬価も高額。もしかして、既存薬でも十分なのに、不必要な薬を患者さんに処方してしまったのではないか」(大学病院医師)と感じる医師は少なくない。
 不必要な薬が多く処方されたとなれば、医療費の無駄遣いが行われたことになる。医療費削減に血眼になっている財務省でも「もう一度、疑わしい臨床研究は検証すべきではないのか」と疑念を抱く声が上がっている。
 当面、医学界の注目は、東京慈恵医科大学や千葉大学など、残り4大学の内部調査の発表だ。これらは最終段階を迎えており、今秋までにも発表されそうだ。
 ある大学の医師は絶対の匿名を条件に証言した。「うちの大学では、当初、大阪市立大学非常勤講師の人物が『ノバルティス社員だと気がつかなかった』と説明しているようですが、名刺の裏には、小さく社名が書かれており、メールアドレスのドメインなどによって、途中で気がついたそうです。当時の感覚では、現在ほど厳密ではなかったので、あまり問題視されなかったそうです。脇が甘かったのかもしれません」と語る。
 しばらくの間、ディオバン論文問題の余波は、収まりそうな気配がない。日本の医学界が失った信用はあまりにも大きい。
 (「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)

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