2013年7月1日月曜日

一般財団法人日本製薬医学会(理事長 今村恭子):臨床研究の信頼性に関する緊急提言

http://japhmed.jp/whats_new/post_77.html

http://megalodon.jp/2013-0731-0959-07/japhmed.jp/whats_new/post_77.html

臨床研究の信頼性に関する緊急提言

日本製薬医学会(理事長 今村恭子)は、以下の「臨床研究の信頼性に関する緊急提言」を発表致します。
臨床研究の信頼性に関する緊急提言
http://japhmed.jp/proposal20130718.pdf

一般財団法人日本製薬医学会
理事長 今村恭子
http://www.japhmed.jp/
2013年7月18日

臨床研究の信頼性に関する緊急提言


 我が国においては、革新的医薬品や医療機器の創出をめざして産学連携によるイノベーションが推進され、「臨床研究に関する倫理指針」他各種指針の改正、治験や先進医療の運用改革など制度面での整備も進んでいる。その一方で、規則の逸脱事例、さらに最近では製薬企業から支援を受けた臨床研究の信頼性を揺るがす事態が大きく報道されている。
 医学の進歩には、診療現場での知見をより多くの患者集団における疾患の克服へと結実させるための臨床研究が重要であることは言うまでもない。しかしながら、臨床研究に携わる者における研究倫理の理解と実践が十分でなければ、社会からの信頼を失い、我が国の医学・医療の発展にとって大きな損失となる。
 
 今般、製薬医学の専門家集団である日本製薬医学会は深く遺憾の意を表明し、調査進行中の事象についての公表情報を注視しつつも、事態の緊急性に鑑み、臨床研究における不正の防止と信頼回復をめざして、検証と再発防止のために以下の緊急提言を発表する 1) 。

■    背景

1)研究の品質に対する取り組みの不備
 研究の品質管理は第一に研究者本人のモラルに大きく依存するが、データ・マネジメントの体制強化、各種委員会の議事録整備など、研究の実施過程の記録作成と保管を通して、チームとしての管理を行うことも重要である。更に、研究に対する品質保証として独立した調査を行うことで公正な研究としての信頼性を担保すべきであるが、こうした品質確保に向けた取り組みが不十分なために誤った結果を発表してしまう事態が続いている。こうした事態は治験を規制するGCPと異なり、臨床研究に関する倫理指針では品質を規定してないことが一因となっている。
 
2)研究の支援体制の不備
 我が国の公的な科学技術研究振興に対する予算措置は決して十分ではなく、臨床研究の適正な実施に必要とされる専門職種を揃えることは極めて困難な状況にあり、研究を総合的に支援し管理するAcademic Research Organization(ARO)の発達も十分ではない。このため少数の研究者が多くの役割を担わざるを得ない状況が、研究の品質の低下を招く事態となっている。治験ネットワークにおいてさえ実質的な連携の実現は困難な現状で、治験よりも各段に乏しい予算の臨床研究においてこそ、各医療機関が相互に機能を共有して、限られたリソースを有効に活用する方策を立てるべきである。

3)情報公開の不備
 医薬品における産学連携は日本では未だいろいろな課題があり,なかでも臨床研究では利益相反(conflict of interest: COI)の開示と管理が注目され、日本医学会がガイドライン 2)を作成して情報公開を推進してきた。しかし、COIについての十分な共通認識に産学双方が至らないまま,研究発表に際して「開示すべきCOIはありません」と一律に表記するのに留まる傾向がある。日本製薬工業協会の「透明性ガイドライン」 3) も一部の施行が延期され、産学連携の透明性や情報開示に関する認識には,産学間にも,日本と諸外国の間にも乖離がみられる。公正で透明な産学連携に向けた注力がかねて求められながらも対応に難渋して今日に至っているのが現状である。


■    再発防止に必要なアクション

 従来はフィランソロピーとしての研究支援による成果への評価は、科学者コミュニティと社会とに委ねられてきた。しかし今日では、限られた財源や人的資源を公正に配分し、患者の治癒と疾患の克服へと結実する成果を生み出すことが期待され、開発と実用化を視野に入れた「研究」は、個人的な知の探究にとどまることはなく、その管理も個人の努力に依存することのない、組織的な取り組みが必要とされている。
 中でも特に、「臨床研究」は対象者の協力を得て成立し、その成果は保険医療体制のもとで医療の実践に直結しうるものであるため、公正な実施と解釈が求められる。今後、臨床研究に対する社会的な信頼を回復し、その成果を世界に発信していくために、研究者、研究機関、製薬企業、学会、行政のそれぞれに対して、以下のアクションをとることを提言する。

1)研究者、研究機関およびIRB(倫理審査委員会)
①    各研究機関における実効性ある教育研修の確立と実践、プロセスの手順化と役割の分離独立の明確化
②    プロトコルや説明文書への研究資金源およびCOIの明記
③    統計専門家やデータ・マネジャーをはじめとする研究支援体制の共有・強化と信頼性の確保
④    資金源の管理と研究実施状況の定期的な追跡体制の確保
⑤    研究への疑義に対する信頼性確保のための措置の文書化と記録の保存と積極的な情報開示

2)製薬企業
①    臨床研究に関連する部門の営業販売部門からの組織的な分離と公正性の確保
②    製薬企業における研究者と研究支援部門に対する教育研修の強化 4)
③    研究資金の透明化と文書化(臨床研究の支援は奨学寄付金ではなく目的を明示した研究契約締結に基づくものとする 5)
④    終了した試験結果や研究への疑義に対する信頼性調査結果の積極的な開示
⑤    公的資金を補完する、企業横断的臨床試験支援基金の創設

3)学会
①    研究の公正な実施に関する全関係者の教育(研究倫理、信頼性保証に関する教育研修)
②    不正を未然に防止し信頼できる研究成果を得るための組織的な体制構築
③    研究不正に対応する調査・処分等の措置に関するルールの確立
④    学会による調査権限の確保に関する規制整備

4)行政
①    研究不正を防止する公的な組織体制の検討(アメリカのOffice of research integrityに類する機関の設置等)
②    薬事法に基づくGCP省令の適用されない臨床研究の管理体制の再検討
③    奨学寄附金の適用に対する明確な制限(臨床研究は奨学寄附金の適用対象から除外し、代わりに研究契約を適用する)
④    臨床研究実績に基づく施設支援体制の確立

 以上、緊急提言として、各関係者がとるべきアクションを提言するが、科学的不正と疑われる事例に対する現在進行中の調査の結果を注視し、日本製薬医学会においてさらに検討を深め、今後引き続き必要な提言を行ってゆく所存である。

1) この提言では、GCP省令の適用対象である治験や製造販売後臨床試験、GPSP省令対象の製造販売後調査を検討対象外としている。
2) 日本医学会.医学研究のCOIマネージメントに関するガイドライン.2011年.http://jams.med.or.jp/guideline/coi-management.pdf
3) 日本製薬工業協会.企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン.2011年1月19日.http://www.jpma.or.jp/about/basis/tomeisei/
4) 日本製薬医学会では、International Federation of Associations of Pharmaceutical Physicians(IFAPP)の認定する製薬医学教育プログラムであるPharmaTrainを日本に導入した。本プログラムは企業研究者に限るものではないが、こうした国際標準化された教育プログラムが今後各方面で充実することが望まれる。
5) このため、日本製薬医学会は「医師主導臨床研究に関する契約書サンプル」を作成した。2011年9月26日、2012年5月9日改訂.http://japhmed.jp/whats_new/_2japmed.html


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