2013年7月3日水曜日

現代ビジネス: 京都府立医大の「降圧薬」論文データ捏造疑惑!本当に必要なのは高価なジェネリック薬品が横行する薬価制度の構造改革だ

京都府立医大の「降圧薬」論文データ捏造疑惑!本当に必要なのは高価なジェネリック薬品が横行する薬価制度の構造改革だ


2013年07月30日(火) 町田 徹 町田徹「ニュースの深層」



大ヒット降圧薬「ディオバン」(一般名「バルサルタン」)の臨床研究に関連して、京都府立医大が今月半ばに公表した再調査報告でもねつ造の可能性を否定できなかった。この問題は、かねて指摘されていた薬価制度の欠陥を改めて浮き彫りした。
データ捏造というゆがんだ競争の背景には、厚生労働省が新薬の薬価を低めに固定して、製薬メーカーに自由な価格の設定(投資回収戦略)を認めない現状がある、という見方が医療関係者の間に広まっているのだ。

その指摘によれば、日本の薬価制度は特許の有効期間中に膨大な新薬の開発コストを回収することを難しくしているという。このため、特許切れ後も新薬の値崩れを防ぐ必要が生じ、「安さ」が最大の売りであるはずのジェネリック医薬品の薬価まで高めに設定せざるを得ない悪循環に陥っている。
この構図のために、何年経っても薬価があまり下がらない仕組みができあがり、国民医療費に占める薬代を突出させる元凶になっている。

それだけに、今回のねつ造疑惑の解決には、関係者の責任追及だけでは不十分だ。我々の負担を押し上げている健康保険の薬価制度の抜本改革を避けて通ることのできない課題として突き付けた格好になっている。

ノバルティスの売り上げの稼ぎ頭

「ディオバン」は血圧を引き下げる効果を持つ高血圧治療薬で、製造・販売元のスイス系製薬大手ノバルティスファーマの収益を支える大黒柱になっている。日本では2000年11月に発売された。ノバルティス日本法人の2012年の売上高は3234億円で、ディオバンはその3分の1程度を占める稼ぎ頭だ。月並みな降圧薬と異なり、脳梗塞や心筋梗塞を予防する効果を持つという臨床研究の存在が、人気の背景にあった。

ところが、最初の調査を不十分とする外部からの指摘を受けた京都医大が今月11日、ディオバンの臨床研究に関する再調査を発表。調査可能な223例を検証したところ、大元になる患者のカルテと検証用のデータの間に34例の食い違いがあったとして「データ操作があった」と結論付けた。しかも、臨床研究の核心だった「脳卒中や狭心症など心血イベントの発生率を下げる効果とした結論は、今回の調査から支持されなかった」と断定している。

それにもかかわらず、同大学やノバルティスは依然として、「データの操作」が「意図的なねつ造」か否か断定できないとしているという。特にノバルティスは29日夕方の記者会見でも「意図的な操作や改ざんを示す証拠は見つからなかった」と説明した
しかし、そもそも、ノバルティスの社員であることを伏せて大阪市立大学非常勤講師の肩書きでデータの解析を担当した元従業員の行為は明らかな利益相反として断罪されるべきものだ。退職しているとはいえ、この元従業員に京都府大の調査に直ちに協力させなかったことも、常識のある企業の対応とは思えない。生温い調査を公表した大学の自浄能力にも疑問符を付けざるを得ないだろう。

加えて、東京慈恵会医科大学、千葉大学などの臨床研究でも、同種の疑惑が指摘されている。このため、全体としての調査もなお不十分で徹底的な解明と責任の追及が必要とされている。

日本のジェネリック薬品はなぜ高価なのか

この騒ぎで構造問題として浮かび上がってきたのが、米国などと違い、日本の健康保険制度が製薬メーカーによる新薬の自由な価格設定を認めず、薬価を低めに抑えている問題だ。
その結果、製薬会社は、薬の単価を上げて採算を向上させるとか、逆に単価を下げて数で稼ぐといったように、自由な投資回収戦略を展開できない。この状況が、今回のような「データ操作」を含む歪んだ競争を助長したのではないかと疑われているのである。

そもそも、厚生労働省が新薬の薬価を低めに誘導すれば、同省は製薬会社の経営の健全性を守るため、特許が切れた後も新薬の値崩れを防ぐ必要に迫られる。そして、本来ならば薬価の引き下げの切り札になるはずのジェネリック薬品の薬価の高め誘導を招くことになる。結果として、本末転倒の事態を引き起こしているというわけだ。
矛盾の象徴は、売り上げが急落するはずの特許切れの新薬の販売状況だ。東京大学医科学研究所の上昌広特任教授によると、特許が切れてジェネリック医薬品と競合する状態になった新薬の売上高が全体に占める割合は、米国(2009年に13%、以下同じ)、ドイツ(16%)、英国(18%)に対し、日本(44%)が突出している。
これを支えているのが、ジェネリック医薬品の高値販売だ。厚生労働省は、ジェネリック医薬品の薬価を、原則として新薬の7掛けとする、お得感のない価格設定をルール化しているのだ。

この結果、ジェネリック医薬品の内外価格差は甚だしい。民主党政権時代の「仕分け」で財務省の仕分け人が厚生労働省に是正を迫ったこともあったが、うやむやのまま現在も内外価格差が放置されているのが実情だ。
本格的な高齢化社会に突入する中で「社会保障と税の一体改革」の必要性が指摘されながら、政府が決めたのは消費税の増税だけで、社会保障費の歳出削減は手付かずだ。今回のねつ造疑惑の発覚は、抜本改革のよい機会だ。薬価の暗部の抜本的な改革が求められている。

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