2013年4月30日火曜日

週刊東洋経済:ノバルティス論文疑惑、バカを見るのは患者?臨床試験に社員が身分を隠して関与。データ捏造の可能性も


http://toyokeizai.net/articles/-/14212
http://megalodon.jp/2013-0611-0856-18/toyokeizai.net/articles/-/14212

ノバルティス論文疑惑、バカを見るのは患者?

臨床試験に社員が身分を隠して関与。データ捏造の可能性も

高血圧症治療薬(降圧薬)の臨床試験で、前代未聞のスキャンダルが持ち上がっている。スイス大手製薬会社のノバルティスファーマが販売する降圧薬バルサルタン(商品名ディオバン)について、五つの大学で行われた臨床試験に同社の社員(現在は退職)が身分を伏せて加わっていたのだ。その社員は統計解析を担当していた。
ノバルティスはこれまで「五つの臨床試験はいずれも医師主導の試験であり、当社はデータ解析を含めていっさい関与していない」と説明していたが、5月22日にそれを撤回し、一転して関与を認めた。
これを受けて、24日に記者会見を開いた日本医学会と日本循環器学会は、京都府立医科大学を中心に実施されたバルサルタンを用いた「キョウトハート試験」について、(製薬会社社員の身分や寄付金の事実を開示しないなど)「利益相反状態の申告が不十分だった」(曽根三郎・日本医学会利益相反委員会委員長)との見解を明らかにした。
キョウトハート試験については、海外の専門誌に掲載された複数の論文でノバルティスからの寄付を受けて研究が実施された事実がまったく書かれていなかった。元社員がノバルティスの社名を隠し、大阪市立大学非常勤講師の肩書を用いていたことも判明した。
もっともここまでであれば、コンプライアンスにかかわる問題として幕引きを図ることも可能かもしれない。だが、さらに大きな問題が持ち上がっている。データの捏造や改ざんの疑惑がくすぶっているからだ。

http://toyokeizai.net/articles/-/14212?page=2
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不自然な試験結果

疑惑の火付け役となったのが、2012年4月に英『ランセット』誌に掲載された由井芳樹・京都大学医学部附属病院医師による論文だった。この論文で由井氏はランセット誌に07年4月に掲載された東京慈恵会医科大学を中心とした「ジケイハート試験」およびキョウトハート試験の結果について「ストレンジ」(奇妙)と指摘。バルサルタンを用いた患者の血圧の平均値および標準偏差と比較対照群のそれが試験終了時にぴたりと一致していることについて疑問視した。
その後、疑惑はさらに深まっていった。12年10月には日本循環器学会の複数の学会員から、キョウトハート試験に関する論文データに疑義があるとの指摘が、学会誌の編集長に伝えられた。事態を重く見た循環器学会が試験論文の責任著者およびノバルティスの執行役員にヒアリングを実施したところ、責任著者から編集長宛てに二つの論文の取り下げをしたいとの申し出があり、12月27日付で論文は撤回された。さらに今年2月1日には、キョウトハート試験のメイン論文について、欧州の専門誌が掲載を取りやめた。
3000人以上の患者を対象とした大規模試験に関する論文が撤回されるのは極めて異例だ。
4月11日には、キョウトハート試験の統括責任者だった松原弘明・京都府立医科大学元教授(2月28日に退職)の発表論文14本52カ所でデータの捏造や改ざんがあったことが大学の調査で判明。キョウトハート試験は調査対象に含まれていなかったものの、同試験の信頼性は大きく揺らいでいる。

http://toyokeizai.net/articles/-/14212?page=3
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患者がバカを見る

ノバルティスにとって、バルサルタンは日本での売上高が1000億円を超える看板商品だ。同社は五つの臨床試験に対する組織ぐるみでの関与を否定するが、これまで臨床試験に関する論文が学会で発表されると同時に「複合心血管イベント発症の危険率が45%減少」などと大々的にアピールしていた(下写真)。
業界誌には「ディオバン発売10周年記念特別座談会」などとうたい、11~12年には8回に上る企画広告を掲載した。そこでは、キョウトハート試験など医師主導試験の責任者や学会の「キーオピニオンリーダー」が登場し、「(バルサルタンの投与群で)脳卒中の相対リスクは45%、狭心症の相対リスクは49%、おのおの有意に減少した」(前出の松原氏)などと宣伝していた。
「そもそも降圧治療間の比較で、血圧に差がないのに心血管イベントのリスクが大幅に異なることは考えにくい」
こう指摘するのは、臨床試験のデータ解析におけるわが国での第一人者として知られる大橋靖雄・東京大学大学院医学系研究科教授だ。
数多くの臨床試験に関与してきた大橋教授は次のように語る。
「キョウトハート試験など今回問題になっている試験では、プライマリーエンドポイント(主要評価項目)に医師の裁量が入る主観的な項目が多く、信頼性に難がある。そのうえ一連の試験の論文からは、データのモニタリングや監査をしっかりやっているようには見えない。それゆえ、試験結果を額面どおり受け止めることは難しい」
疑惑が深まる中で、一連の試験を主導した各大学は、データの信頼性に関する調査を開始した。しかし、カルテ保存義務の5年が過ぎていることや統計解析を元社員に任せきりにしていた疑いがあることから、真相究明は難航が必至だ。そもそも大学側に、自らの非を認める自浄作用があるのかも定かでない。結局、患者がバカを見るのかもしれない。


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