2013年4月30日火曜日

日刊薬業:【COI せめぎ合う利益相反問題・下】突き付けられた「ディオバン論文問題」

http://nk.jiho.jp/servlet/nk/kigyo/article/1226572695102.html
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【COI せめぎ合う利益相反問題・下】突き付けられた「ディオバン論文問題」
( 2013年3月27日 )

 「この研究に関してノバルティスからの資金提供、研究費・寄付金の提供、人的提供はあったのか」

 「資金の提供はある。だが、われわれは(論文の)データに関与できない。これは奨学寄付金という考え方では全て同じ」

 2月12日、都内で開かれたノバルティス ファーマの業績記者会見。看板製品のARB「ディオバン」の関連論文への関与をめぐり、記者と三谷宏幸社長の間でこんなやりとりがあった。

 事の発端は、ディオバンに関する医師主導型の大規模国内臨床試験「KYOTO HEART Study」の論文が、「データの不備」を理由に、欧州心臓病学会(ESC)、日本循環器学会の学会誌で相次いで撤回されたことにある。

 同試験の統括責任者を務めた京都府立医科大循環器・腎臓内科教授(当時)の松原弘明氏は、データ入力に誤りがあったことを認めたものの、「論文の結論には影響しない」と主張。その後、「大学に迷惑をかけた」として辞職した。同大は特別チームを作り、問題となった臨床研究の精度を検証している。

 ここでクローズアップされたのが、この論文を販促活動に使用していたノバルティスと、松原氏との資金的なつながりだ。ディオバンを国内トップ製品に押し上げた一因とも言える論文の陰に利益相反(COI)はあったのか。関心はそこに注がれた。

 「京都府立医大から発表される数字もあると思う。それ(開示を)を拒んでいるものではない。府立医大が発表する話になれば発表しようと思う」。会見で三谷社長は奨学寄付金の提供を認めた上で、情報開示には協力する姿勢を示した。

●批判多い「奨学寄付金」
 会見で取り上げられた奨学寄付金は「教育研究の奨励」を目的として、製薬企業から大学へ提供される金銭を指す。その額は数万円から数千万円程と幅があり、研究費用の確保に苦心する大学側にとっては重要な資金源だ。ただ、受け取った側の責任で利用され、提供側の企業には責任が生じにくいため、「ブラックボックス」になりやすいとの批判もある。

 ヘルスケア産業のコンプライアンスに詳しい都内のある弁護士は「製薬企業は使途をあまり追跡しない」と奨学寄付金の問題点を指摘する。

 「(臨床研究に必要な)全部の資金を提供しているわけではない」「良い(研究)結果が出るという保証はない」(三谷社長)。現在の奨学寄付金の特性に照らせば、ノバルティスの直接的な責任はどうしても曖昧になる。

 ただ、奨学寄付金を研究費用の使い道を明確に絞り、資金の提供者と受給者の双方に責任が発生する「研究契約」へ改めようという動きは確実に広まってきている。日本製薬医学会(JAPhMed)の今村恭子理事長は「今は過渡期にある」と見る。

 ESCが撤回したディオバン論文は2009年度の発表。今村理事長は「今から遡及して批判するのは難しい」と語る。論文の根拠となった医師主導型臨床試験は03年に企画された「非GCP研究」で、当時は自主研究に対する倫理指針も不十分だったほか、製薬企業からの資金提供の在り方などが今ほど議論されていなかったことが背景にある。

 国内製薬企業の間では最近、「メディカルアフェアーズ(MA)」という部門が相次いで新設され、臨床研究支援に関わるCOI対策としての役割も期待されるようになっている。

 海外企業で一般的とされるMAは、ノバルティスでも開発や営業の部門から独立した「サイエンティフィックアフェアーズ本部」として設置されている。同本部が主体となって「研究者個人のみに依存しない形」(同社広報)での臨床研究を促進しており、2~3年ほど前から、資金の流れや研究計画が明文化された「契約型」へ移りつつある。

 国内企業の場合、MAが営業、開発部門から独立していない場合もあるが、前出の弁護士はMAが独立した部署であることが「形としては正しい」と主張する。

●医師が恐れるメディアの報じ方
 日本製薬工業協会の透明性ガイドライン(GL)をめぐる議論でも、奨学寄付金を含む学術研究助成費や研究開発費などは予定通り13年度から公開されることで決まった。

 医療界が難色を示し、公開が1年先送りになったのは、医師個人に支払われた「原稿執筆料等」だ。医師の実名と、講演料などを含む製薬企業からの支払金額・件数が“丸裸”にされることに対し、現場では「興味本位に報じるメディアの餌食になる」(勤務医)ことを恐れる空気が濃い。

 松原氏個人が製薬企業から受け取った「原稿執筆料等」はいくらなのか。じほうの情報公開請求に応じ、京都府立医科大が開示した内部資料によると、松原氏は12年度にノバルティスを含む製薬企業9社から、合計約240万円に上る支払いを「座長謝金」や「講師謝金」などの費目で受け取ると大学側に報告していた。

 11年度以前の分に関しては「個人のプライバシーに関わる」として、企業名と費目のみを公開し、金額や件数は非公開だった。問題の論文がESC学会誌で発表された09年度は降圧剤を主力製品に抱える製薬企業を中心に25社、10年度は21社、11年度は18社からの支払いが報告され、いずれの年度も座長謝金や講師謝金が大半だった。

 12年度にノバルティスから松原氏へ講師謝金(2件)として支払われたのは40万円だった。ただ、この金額はあくまで企業との関係を示す目安に過ぎない。

 その一方で、JAPhMedの今村理事長は「情報が公開されることで本人が責任を意識するようになり、誤解されないような言動を取ることになる」と、COIをめぐる情報公開の意義を語る。

 専門家に対してその専門性への対価が支払われるのは当然だが、同時に医師、研究者、企業を含む全てのステークホルダーは、第三者の監視の下で常に緊張関係を保つ必要がある。生命関連産業では言うまでもない。

●「無駄になった善意」 「論文が撤回されたということは試験に参加した被験者の善意が無駄になったということ」。ある業界関係者は、約3000人が参加したディオバンの臨床試験が“なかったこと”にされたことの重大性を強調する。透明性GLをめぐる議論の中で湧き起こった「ディオバンスキャンダル」が突き付ける課題は重い。

 その真相はなおも調査中だが、COI問題をあらためて浮かび上がらせたことは確かだ。医薬品に関わるステークホルダーの説明責任が問われるのはむろん、公開された情報をどう受け止めるか。メディアや市民も、また試されている。(この連載は栗田賢一、藤本太郎、中野雅弘が担当しました)


●松原氏が報告した企業提供の金銭(2012年度分)
社名
件数
金額(円)
費目
ファイザー
3
444,443
座長、講師謝金
ノバルティス ファーマ
2
400,000
講師謝金
第一三共
2
333,332
座長、講師謝金
アステラス製薬
3
277,777
座長謝金
興和創薬
2
277,777
座長謝金
サノフィ・アベンティス
1
250,000
本会出席謝金
MSD
1
166,666
座長謝金
武田薬品工業
1
166,666
座長謝金
バイエル薬品
1
100,000
座長謝金
12年度計
16
2,416,661
 
※情報公開請求に基づき入手した資料の一部


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