2013年4月30日火曜日

毎日新聞: 疑惑の薬・バルサルタン:/下 日本医学に深まる不信 成長戦略、阻む恐れ

疑惑の薬・バルサルタン:/下 日本医学に深まる不信 成長戦略、阻む恐れ

毎日新聞 2013年06月23日 東京朝刊
 「医療は2兆円の輸入超過だが、日本のイノベーション(技術革新)で反転させられると信じている」。安倍晋三首相は今月14日、国民向けの動画で、「成長戦略」における医療分野への期待を熱く語った。
 カギを握るのは産学連携の成否だ。政府は、世界の健康医療産業が2030年には約530兆円と、今の約3倍に増えると試算する。iPS細胞(人工多能性幹細胞)を作製してノーベル賞を受賞した山中伸弥京都大教授のような研究者の力も結集して、再生医療や創薬などを成長へのエンジンに育て上げようと意気込んでいる。
 だが、そんな戦略に水を差す形となっているのが、3月末に表面化した降圧剤「バルサルタン」の臨床試験疑惑だ。
 販売元のノバルティスファーマ(東京)は、京都府立医大など5大学に臨床試験を提案。「他の降圧剤に比べ、バルサルタンの方が脳卒中の危険性を下げるなどの優れた効果がある」と結論付けた論文を宣伝に活用してきた。だがノ社は、社員が統計解析に関与していたにもかかわらず、情報開示をしていなかったことや、府立医大側に1億円超の寄付をしていたことで、疑惑を招いている。データの不自然な一致など論文の内容自体に疑問が呈されていることも問題を大きくさせている。
 産学連携には、「企業から資金援助を受けた研究者の仕事を信用してよいのか」という疑念がついて回り、ぬぐい去るには金銭に関する情報公開が不可欠となる。「8月に東京で、アジアや太平洋地域の主要医学誌の編集部が一堂に会する国際会議がある。主要なテーマは、研究者と製薬会社の金銭関係と情報公開のあり方だ。バルサルタンの問題が話題の中心になるのは間違いない」。国際医療に詳しい渋谷健司・東京大教授はこう話す。
 米国の有力経済誌「フォーブス」も、府立医大の論文が撤回(取り消し)されたことや、ノ社が社員の臨床試験への関与を謝罪したことなど、一連の問題の記事を5本報じている。「日本の産学連携のあり方に海外から疑念を持たれたことは、日本発の医薬品の国際的な信用にとって大きなマイナスとなった」。日本医師会の今村聡副会長はこう語り、この問題が成長戦略に影響することを懸念する。
        ◇
産学連携の一方の当事者である日本の研究者への信頼も大きく揺らいでいる。米科学誌に昨年発表された報告によると、「捏造(ねつぞう)かその疑い」で撤回された生物医学や生命科学分野の論文数は、米国、ドイツに続いて日本が3位。昨年は、元東邦大の麻酔科医による「世界最多」172本の捏造が判明。今年は既に、バルサルタンの臨床試験を行った府立医大の松原弘明元教授が関係した14本で不正が発覚している。バルサルタンとは別の研究テーマだった。
 研究不正を許す日本の土壌に厳しい目が集まる中で、今回の問題は起きた。府立医大の臨床試験論文を撤回した欧州心臓病学会誌の編集長、トーマス・ルッシャー医師は4月、誌上で世界の科学不正の歴史をまとめた。最近の問題として紹介した二つのうちの一つが、日本のバルサルタンの臨床試験だった。「日本で臨床試験に懸念が発生した。まだ詐欺かは明らかでないが、論文の正当性に影響を与える懸念だ」
 バルサルタン問題への日本社会の対応を世界が見ている。(この連載は河内敏康と八田浩輔が担当しました)


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