2013年4月30日火曜日

毎日新聞: 疑惑の薬・バルサルタン:/上 血圧データ、不自然な一致 4大学、別々の臨床試験

2013年6月21日 フライデー: 疑惑の薬・バルサルタン:/上 血圧データ、不自然な一致 4大学、別々の臨床試験

疑惑の薬・バルサルタン:/上 血圧データ、不自然な一致 4大学、別々の臨床試験

毎日新聞 2013年06月21日 東京朝刊
 昨年度の国内医療用医薬品の売り上げランキングが14日、発表された。1位はノバルティスファーマの降圧剤「バルサルタン」(商品名ディオバン)の1083億円。大ヒット薬は業界で「ブロックバスター」と呼ばれ、この薬もその一つ。ところが今、厳しい視線にさらされている。
 「バルサルタンには多くの効果があり、血圧を下げるだけではない」と、発売後に実施された臨床試験を基に宣伝されてきた。「だが科学的な根拠がなかったなら、国民は貴重な保険料や税金を収奪されたことにもなる」。国の薬の承認審査に携わってきた谷本哲也医師は疑惑の構図をこう解説する。
 宣伝に活用された臨床試験は、東京慈恵会医大と京都府立医大で実施された。バルサルタンと別の降圧剤を服用した二つの患者グループを対象に、血圧が影響する脳卒中などの発症状況の違いを比べた。患者グループの最高血圧(収縮期血圧)の平均値やばらつきは同じだったのに、バルサルタンの方が脳卒中などを発症した患者が少なかった。「この薬には降圧に関係なく、脳卒中などのリスクを低下させる力がある」とする論文が07、09年に発表されていた。
 ところが昨年4月、世界有数の医学誌ランセットに、これらの臨床試験への「懸念」を示す論文が掲載された。執筆した京都大病院の由井芳樹医師は、降圧剤の効果で血圧はいずれも下がるものの、下がり方には当然差が出るはずだと指摘した。臨床試験の対象となる患者を、年齢や性別、元々の血圧など属性が偏らないように二分したとはいえ、血圧が一致することは考えにくいことだった。
 さらに調べると、千葉大と滋賀医大でも、種類が異なる降圧剤を服用した二つの患者グループで、試験終了時の最高血圧の平均値が一致していた。
 由井医師は「前提として血圧が一致していないと、他の薬を飲んだグループと比較して、『バルサルタンには降圧効果以外にも優れた効果がある』と説明しにくい。血圧の値がこれだけそろうとは奇妙だ」と指摘する。
 由井医師は、バルサルタンなどの降圧剤に関する国内外の36の臨床試験結果も調べてみた。比較する2グループで、最高血圧と、最低血圧の平均値がそれぞれ一致していたのは、慈恵医、京都府立医、千葉、滋賀医だけだった。由井医師はこの結果も昨秋に発表している。
新薬の承認を目指す「治験」には、薬事法で試験中の厳格なモニタリングや監査が製薬会社に義務付けられている。しかし、今回のように市販後に行われる大学の臨床試験をチェックする公的な仕組みはない。疑惑を受け、薬の試験制度に詳しい景山茂・慈恵医大教授は「臨床試験の不正を防ぐには、各大学にサンプル調査する独立した部署を置く必要がある」と訴える。
 同様の臨床試験を実施した名古屋大を含む5大学は、疑問に答えるため、データの検証を始めている。だが学会に促されて始めた京都府立医を除けば、いずれもノ社による試験への不透明な関与が毎日新聞の報道で表面化した今年3月以降と、動きは鈍かった。
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 「日本最大の薬と研究者に関わるスキャンダル」とも言われるバルサルタン問題。影響の大きさと真相究明への課題を報告する。



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