2013年4月30日火曜日

NHK: 臨床研究論文 データ操作の疑い

WEB特集

臨床研究論文 データ操作の疑い

7月12日 22時40分
稲垣雄也記者
国内だけで年間1000億円以上の売り上げがある高血圧の治療薬「ディオバン」。
巨大製薬会社、ノバルティスファーマが販売するこの薬に疑惑の目が向けられています。
血圧を下げるだけでなく、脳卒中や狭心症を減らす効果もあるとした京都府立医科大学の臨床研究について、大学の調査委員会は、11日、何らかのデータの操作があったとする調査結果を発表しました。
1兆円市場と言われる高血圧の治療薬を巡り何が起きていたのか。
京都放送局の山下由起子記者と科学文化部の稲垣雄也記者が解説します。

論文問題とは

国際的な巨大製薬会社、ノバルティスファーマが販売するディオバンは高血圧の患者が血圧を下げるために飲む薬です。
問題となっているのは、ディオバンにほかの薬よりも脳卒中や狭心症を減らす効果があると結論づけ、薬の販売促進にも使われていた京都府立医科大学の臨床研究の結果にうそが含まれていたのではないかという点です。
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臨床研究は、京都府立医科大学の松原弘明元教授の研究グループが平成16年から4年間におよそ3000人の患者を対象に行った大規模なものでした。
研究グループは「ディオバンを服用するとほかの高血圧の薬より脳卒中や狭心症の発症が抑えられる効果があった」という結論をまとめ、6本の論文にして発表しました。
しかし、この論文を掲載した雑誌の出版元である日本循環器学会などは、論文のデータに重大な誤りがあるなどと指摘し、去年からことしにかけて6本の論文すべてが撤回されました。
さらに、この臨床研究を巡ってはノバルティスファーマの当時の社員が、所属を伏せたままデータ解析などを担当していたことも明らかになったため、研究結果に対し、学会などから相次いで疑問の声が寄せられました。
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調査の方法と結果

問題を受け、京都府立医科大学では調査委員会を設けて論文を作成するときの経緯やデータに誤りがないかについて調査を進め、11日、結果を公表しました。
調査では、臨床研究の対象となったおよそ3000人の患者のカルテのうち、大学の附属病院に残っていた223人のカルテの情報と、論文に使われた統計解析のデータが照合され、検証されました。
その結果、カルテと統計解析のデータで34か所食い違う点が見つかったのです。
具体的には、カルテに脳卒中や狭心症と診断された記載があったにもかかわらず症状がないようにされていた患者が複数いました。
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逆に症状がなかったのにあったようにされた患者もいましたが、結果としては脳卒中を抑えるなどの治療効果が高くなるようデータが変更されていたということです。
調査委員会では、何らかの操作が行われた疑いがあると指摘し、血圧を下げる効果は、ほかの薬と大差がなかったとしたうえで、ほかの薬よりも脳卒中や狭心症の発症を抑えられるとした結論は誤りがあった可能性が高いとしたのです。
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しかし、データの操作が意図的なものなのか、ミスなのかについては判断できなかったと述べ、調査に限界があったことも明らかになりました。
これに対し、ディオバンを販売しているノバルティスファーマは「情報が足りないため、データの変更が恣意(しい)的なものかどうかは判断できない」としています。

医療界の反応

今回の調査結果は、医療界に大きな波紋を呼んでいます。
ノバルティスファーマの当時の社員は、京都府立医科大学のほかに、東京慈恵会医科大学、千葉大学、名古屋大学、それに滋賀医科大学の合わせて4つの大学でも社員であることを明らかにせずにディオバンに関する論文の作成に関わっていました。
発表された論文は薬の販売促進に使われました。
ディオバンは、国内でも年間1000億円以上を売り上げるヒット商品になっています。
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こうした大学と製薬会社との関係について学会などから批判の声が高まっています。
118の学会が加盟する日本医学会は、利害関係のある当事者が身元を明らかにしなかったのは問題だとして「非常に残念な、許しがたい行為で二度とあってはならない」と厳しく批判しています。
また、厚生労働省は「データを操作したことが強く示唆される内容で、このようなことが起きたのは非常に遺憾だ」としたうえで、ほかの4つの大学の調査結果などを踏まえて、今後の対応を検討することにしています。

今後の調査は

データの意図的な操作はあったのか、今後の調査の焦点の一つとなるのは、臨床研究に関与したノバルティスファーマの当時の社員の証言です。
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京都府立医科大学や大阪市立大学の調査委員会は、ノバルティスファーマに対し、当時の社員への聞き取りを求めましたが、できていません。
ノバルティスファーマは「元社員とは連絡を取ったが調査を拒否していて、会わせられない」などと説明しています。
これに対し、臨床研究を巡る問題に詳しい臨床研究適正評価教育機構の桑島巖理事長は「実態の解明には元社員への聞き取りは不可欠だ。会社はみずから詳しい調査を行い、早急に実態を明らかにすべきだ」と話しています。
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利益の確保を第一に考える企業と、患者に向き合う医療現場の双方にモラルが欠けていたと言わざるをえない今回の問題。
真相はまだ明らかになっていません。



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