2013年4月30日火曜日

毎日新聞: バルサルタン:臨床試験疑惑 降圧剤不正「意図的操作」明言避け 大学側会見、元社員は聴取拒む

バルサルタン:臨床試験疑惑 降圧剤不正「意図的操作」明言避け 大学側会見、元社員は聴取拒む

2013年07月12日

 日本で最も売れている医療用医薬品である降圧剤「バルサルタン」を巡る臨床試験疑惑は11日、京都府立医大が初めて不正を認めたことで新たな局面に入った。データ操作は、誰が何のために行ったのか。販売元のノバルティスファーマ(東京)の社員(既に退職)はどう関与したのか。当の元社員は大学の聴取を拒んでおり、疑惑は深まるばかりだ。
 「今回の事態を招いたことを極めて重く受け止め、心からおわびします。関与した者の厳正な処分を行いたい」。この日、京都市内の京都府立医大で行われた記者会見で、吉川敏一学長は深々と頭を下げて陳謝した。
 報告書では、統計解析を担当した元社員や、研究を主導した松原弘明元教授(56)を含む複数の人物がデータ操作に関わることが可能だったとした。しかし、調査委員長の伏木信次副学長は「意図的な操作かどうかも含めて特定することはできなかった」と、明言を避け続けた。
 大学の問題点として「研究室には統計解析に通じた人材がおらず、製薬企業従業員の力を期待した点に問題があった」と指摘した。再発防止策として、統計の専門家を学内に配置するほか、製薬企業からの研究費の寄付や研究者の講演料の受け取り状況についてもホームページで公開するとした。薬を日常的に利用する患者などからの問い合わせに応じるため、近く大学病院内に専用相談窓口を設ける。
 厚生労働省研究開発振興課は「極めて遺憾な事態だ。具体的な責任は誰にあるのか、大学には引き続き調査を求める」(一瀬篤課長)とし、文部科学省と再発防止対策を協議する方針を示した。
 日本医学会の利益相反委員長、曽根三郎氏は「操作によって効果があったというのは捏造と言われても仕方がない。操作された結果を基に販売促進に利用したことは極めて悪質であり、再発防止のためにも企業は大学の調査に協力し、説明責任を果たすべきだ」と指摘する。【八田浩輔、野田武、五十嵐和大】
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 ■解説

 ◇大学の任意調査、限界

 バルサルタンは昨年度、日本で最も売れた医療用医薬品で、1083億円を売り上げた。これは保険料として国民が負担してきたのに、売り上げを支えた論文の正当性は失われた。ノバルティスファーマには説明責任が求められる。

府立医大の論文は、日本循環器学会の診療ガイドラインにも盛り込まれ、医師たちの薬の選択に影響を与えてきた。日本医師会の今村聡副会長は「論文が間違っていたなら、他の適切な治療を受ける患者の機会を不当に奪った恐れがある」と厳しく批判している。
 患者数が3000人規模の大規模な臨床試験には10億円以上の費用がかかるともいわれる。ノ社が研究チームや個々の研究者に資金提供をしていたことに関心が集まるが府立医大は「調査中」として明らかにしなかった。ノ社も開示していない。
 府立医大は、肝心の統計解析をした元社員からは事情聴取できていない。「(ノ社に)既に退職しているとの理由から断られた」という。これに対し、ノ社は「元社員の強い意思だ」としており、大学による任意調査の限界を露呈し、疑惑の真相解明は容易ではない。【八田浩輔、河内敏康】
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 ◇降圧剤バルサルタンの臨床試験を巡る動き

00年11月    ノバルティスファーマが日本での販売を開始
02年〜      東京慈恵会医大チームが試験を開始
          京都府立医大、滋賀医大、千葉大、名古屋大の各チームも順次試験を始める
07〜12年    慈恵を皮切りに5大学が論文を公表。バルサルタンのPRに利用される
12年 4月〜   英医学誌ランセットなどに名大を除く4大学の論文の結果を疑問視する意見が掲載される
13年 2月 1日 欧州心臓病学会誌が京都の主論文を「重大な問題がある」として撤回
      12日 ノ社が社長会見で京都チームについて「会社としての関与はない」と見解
      28日 京都チームの責任教授が辞職
    3月28日 本紙が「京都チーム試験に社員が関与」と報道
    5月 2日 本紙が「全ての試験で社員関与」と報道
      22日 ノ社が社内調査を経て「不適切だった」と一転謝罪
      24日 日本医学会が「試験の国際的な信頼が揺らいだ」と批判
      27日 厚生労働省がノ社を厳重注意
      29日 日本医師会が「製薬企業による公正性を欠く関与は許されない」と批判
    6月 3日 ノ社が社長らの報酬をカット


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