2013年7月3日水曜日

毎日新聞:降圧剤データ:慈恵医大、元社員に丸投げ「大きな間違い」

降圧剤データ:慈恵医大、元社員に丸投げ「大きな間違い」

毎日新聞 2013年07月30日 21時53分(最終更新 07月31日 07時35分)
 累計1兆円を超す売り上げを誇る大ヒット薬を支えた科学的根拠が崩れ去った。降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)の臨床試験で論文不正を認めた東京慈恵会医大の調査結果は、製薬会社ノバルティスファーマの元社員による改ざんの疑いを強く示唆した。一方、医師が製薬企業に過度に依存した試験だったことも浮き彫りとなり、医薬業界への不信感は極まっている。
 「遺憾ながら、何者かによってデータが人為的に操作されていると考えられる」。東京都港区の慈恵医大で記者会見した橋本和弘調査委員長は、終始硬い表情を崩さなかった。
 調査報告書は「データ操作は統計解析段階でなされた」と推認し、元社員の不正への関与を強く示唆した。一方、今月27日に大学の聞き取りに応じた元社員は、データ操作への関与を否定したばかりか、統計解析を行ったことも否定したという。しかし、責任者の望月正武元教授ら大学側の研究者十数人は「統計解析をしたのは元社員だ」と証言。このため調査委は「元社員の供述は虚偽で信用できない」と判断した。
 元社員が試験に参加することになったのは、望月元教授がノ社の営業社員に統計の専門家の紹介を依頼したことがきっかけだった。この時、元社員は当時非常勤講師を務めていた大阪市立大など4種類の名刺を持っていたという。だが「試験の最終段階では、ほとんどの研究者がノ社の社員と分かっていた」(橋本委員長)とした。
 今回の調査で、資金提供元の製薬会社元社員に、事務局機能から統計解析という研究の根幹まで丸投げするという研究者側の無責任さも明らかになった。
 橋本委員長は「研究者側にとって(元社員は)非常に便利で、信頼して任せてしまった。研究チームの大きな間違いで深くおわびしたい」と陳謝。再発防止策として大学内に「臨床研究センター」を設置する方針などを示した。【八田浩輔、河内敏康、須田桃子】

 ◇強制力なき調査に限界

 バルサルタンの臨床試験論文を巡る東京慈恵会医大、京都府立医大、ノバルティスファーマの調査結果が出そろった。慈恵医大は協力を断られた府立医大と異なり、試験に関与したノ社元社員からも聴取。その結果、不正操作は元社員が行ったと推認したが、「消去法」で導いたものでしかなく、元社員は関与を否定している。強制力をもたない当事者による調査の限界といえる。

府立医大の調査では、データとカルテを突き合わせ、他の薬を服用した患者に起きていない虚偽の脳卒中の記述があるなど、バルサルタンの効果を際立たせる大胆な不正操作があった。一方、慈恵医大ではこうした症例に食い違いは無かったが、結論を導く前提となる血圧値が操作されていた。科学的な再検証で「証拠」は見つかったが、誰がなぜ操作を行ったのか特定できないのは、誰かがうそをついているか、真実を知る人間が調査対象から漏れているからだ。
 国は、新薬を承認するための治験と異なり、市販後の臨床試験が適正に行われているかをチェックする有効な手立てを講じてこなかった。このことが今回の疑惑を許した側面がある。厚生労働省は有識者検討会で調査を始める。国民が納得できる結論を導き出す責任がある。【八田浩輔】

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